『浮き雲』『過去のない男』『街のあかり』などで知られるフィンランドのアキ・カウリスマキ監督の新作を映画館で観てきました。
12月15日公開の本作、名古屋では1月12日公開と関東エリアよりも1ヶ月ほど遅い公開日だったのでまだかまだかと年が明けるのを楽しみに待ってました!
そして今日、公開日初日に観てきました〜!
今回は、アキ・カウリスマキ監督の新作『枯れ葉』について鑑賞レビューするとともに、カウリスマキ監督の魅力についてまとめてみたいと思います。
アキ・カウリスマキ作品の魅力
アキ・カウリスマキはフィンランドを代表する監督です。
90分以下、極端に少ないセリフ、無表情な登場人物が作品の特徴で、静かで独特なユーモアが魅力。
「オフビートな奇才」と称されることもあります。
トラジコメディ(tragicomedy=悲劇×喜劇)と呼ばれるアキ・カウリスマキ監督の作品は「もうこれ以上はやめてあげて〜!」と懇願したくなるくらい(笑)、登場人物たちに不運や不幸が続くことが多いけれど、各所に静かでユーモア溢れる演出が散りばめられており思わず笑顔になってしまいます。
自身が「負け犬」と表現するような労働者を主人公とする作品が多く、全体的に暗く哀愁の漂うシーンが多いですが、その中でも人の温かみや、愛、そして仄かな希望が感じられる作品が多いです。
代表作として、
- 労働者三部作「パラダイスの夕暮れ」「真夜中の虹」「マッチ工場の少女」
- 敗者三部作「浮き雲」「過去のない男」「街のあかり」
がよく挙げられます。
『枯れ葉』あらすじ
- 舞台は北欧フィンランドの街・ヘルシンキです。
- 理不尽な理由で突然解雇された女性・アンサ。
ある夜、カラオケバーで、工場で働く男・ホラッパに出会います。
ホラッパは酒に溺れながらも仕事に真面目に向き合う日々を生きていました。
二人は言葉を交わすことはなかったけれど、お互いに惹かれ合うものを感じます。 - ある日、偶然再会した二人はお茶をして映画を観に行くことに。
お互いの名前を知らないまま二人は少しずつ距離を縮めていきます。 - しかし、不運が重なり、二人の幸せは阻まれてしまい・・・。
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『枯れ葉』鑑賞後レビュー
アンサはスーパーで真面目に働きながら一人で暮らしている女性。
どのみち廃棄される賞味期限切れの商品を持って帰ろうとしたというだけで解雇されて、職を失います。
(こんな真面目な女性を賞味期限切れのパン1つで解雇するなんて雇用主側にとってよっぽど損失だと思う・・・)
一緒に働く職場の女性たちの団結にほっこり。
たとえ職を失うという結果は不都合でも理不尽に一緒に立ちはだかってくれる味方がいるのって嬉しいことだよね。
ていうかアンサをじっと見ていた警備員、アンサのことが好きなんだと思ってたよ。違うんかい。笑
ああいうガタイのいい人が怖い顔で女性を凝視してる時は意外と敵意じゃなくてラブな熱視線ってパターンが多いんだけどな、と裏切られた。笑
連日報じられる悲しい戦争のニュースに耐えかね、アンサがラジオのチャンネルを変えると流れる日本の歌謡曲。
フィンランドの日常のワンシーンに日本のムーディーな歌謡曲が馴染むって、すごいマリアージュだと思う。
チープな表現すると、芸人のヒロシです・・・の逆バージョンみたいな感じ。(伝わる?笑)
職探しのために行ったインターネットカフェの店長?店員?が意地悪かと思いきや優しくて好き。
工場で働く男性・ホラッパはアルコール依存症。
職場の友人に誘われて行ったカラオケバーでアンサと出会う。
話しかけなかったけど、お互いに良い印象を抱いたのは伝わってくる。
名前も連絡先も交換せずにそれっきりだったけど、街中で偶然出会い二人の距離は次第に近づいていく。
だけど不運が重なって・・・。どうなっちゃうの〜?と静かにハラハラ。
相変わらず労働者の哀愁を描かせたらピカイチなアキ・カウリスマキ監督。
「さあ今日も頑張って働こ〜!」っていう気概とかやる気とかは全く感じられない(失礼)
でも出てくる人みんな働くこと、生きることを決して諦めてない。
毎日働き、酒を飲むことしか楽しみがないホラッパが職場の友人に言った「その年まで生きるつもりはない」がホラッパの心情を表してるなあと思った。
生き甲斐がないと、死にたいわけではないけどいつ死んでもいいやって気持ちになっちゃうんだろうし、自分が年を取るイメージ、その年まで生きていたいっていうイメージが湧かなくなるんだろうなって。
でもカラオケバーでアンサに出会って、二人で生きるイメージが湧いて、ホラッパが変わっていこうとする姿が素敵だった。
映画を観るアンサとホラッパ。
引用元:『枯れ葉』公式ホームページ
ラジオから流れる戦争のニュースを一人で聞いていた時のアンサは無言だったけど、ホラッパの前では「ひどい戦争!」って憤るところが印象に残ってる。
悲しいニュースを聞いた時、感じた悲しみとか怒りを伝えられる相手がいるっていうのも幸せなことだよね。
二人が食事をしている姿から幸せな未来が想像できた。
ホラッパがアンサとの未来のために自分を変えようと頑張る姿がグッとくる。
アキ・カウリスマキ作品にはわんちゃんがよく出てくるけど、今回もいました!愛らしかった。
犬が可愛らしくて犬が出てるシーンは話している人よりも犬の仕草にばかり目がいってしまった。笑
どこかの記事で読んだ「愛をもう一度勝たせてやりたい」という監督のコメントが素敵。
こんな時代だからこそ愛を描こうとした監督の想いをひしひしと感じる作品でした。
ぜひ映画館で観てみてくださいね。
◆アキ・カウリスマキ監督のメッセージ
取るに足らないバイオレンス映画を作っては自分の評価を怪しくしてきた私ですが、無意味でバカげた犯罪である戦争の全てに嫌気がさして、ついに人類に未来をもたらすかもしれないテーマ、すなわち愛を求める心、連帯、希望、そして他人や自然といった全ての生きるものと死んだものへの敬意、そんなことを物語として描くことにしました。
それこそが語るに足るものだという前提で。引用元:『枯れ葉』公式ホームページ
◆映画『枯れ葉』
フィンランド 2023年 アキ・カウリスマキ監督
コメディ/ロマンス 1時間21分
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◆上映館(愛知県)
愛知県の上映館はミッドランドスクエア・シネマ2(スクリーン12※)のみです。※2024年1月12日現在
ミッドランドスクエア シネマ2
愛知県名古屋市中村区名駅4-11-27 シンフォニー豊田ビル2F